彼岸過迄  
報告
一  
 眼が覚(さ)めると,自分の住み慣(な)れた六畳に,いつもの通り寝ている自分が,敬太郎(けいたろう)には全く変に思われた。(中略)

二〜六 (省略)
七  
 田口は硯箱(すずりばこ)と巻紙を取り寄せて,さらさらと紹介状を書き始めた。やがて名宛(なあて)を認(したた)め終ると,「ただ通り一遍の文言(もんごん)だけ並べておいたらそれで好いでしょう」と云いながら,手焙(てあぶり)の前に翳(かざ)した手紙を敬太郎(けいたろう)に読んで聞かせた。(中略) 「ああそうか。そいつは私(わたし)の失念だ」  田口は再び手紙を受け取って,名宛の人の住所と番地を書き入れてくれた。 「さあこれなら好いでしょう。不味(まず)くって大きなところは土橋(どばし)の大寿司流(おおずしりゅう)とでも云うのかな。まあ役に立ちさえすればよかろう,我慢なさい」 「いえ結構です」 「ついでに女の方へも一通書きましょうか」 「女も御存じなのですか」
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山下:注)・・という引用なので,この頃は余り有難くない評判だったようです・・・。現在はそんなことありません。